不登校や暴力行為の低年齢化を読み解く

令和の小学校に何が起きているのか
近年、日本の学校では大きな変化が起きています。
文部科学省の調査によると、2024年度の学校内の暴力行為は128,859件に達し、過去最多となりました。
さらに、不登校の児童生徒数も約35万人と、こちらも過去最多を更新しています。
数の増加と同時にもう一つ注目すべき変化があります。
それは問題行動の低年齢化です。
かつて校内暴力や問題行動は「中学生の問題」として語られることが多くありました。
しかし現在では
- 暴力行為の多くが小学校で発生
- 小学校で不登校が始まるケースが増加
という状況が指摘されています。
つまり、日本の教育現場で
「小学校段階での学校適応の困難」
が増加しているという見かたが広まっているのです。
本記事では統計データを整理しながら
「令和の小学校で何が起きているのか」
を読み解いていきます。
1.まず最初に文部科学省の調査から
現在の教育現場の状況を確認しましょう。
近年、次の3つの指標すべてが過去最多を更新しています。
- 暴力行為
- 不登校
- いじめ認知件数
暴力行為の増加
2024年度の調査によると、学校で発生した暴力行為は
128,859件となりました。
これは前年から約2万件増加しています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00006.htm
さらに長期的に見ると
| 年 | 暴力行為 |
| 2015 | 約56,000件 |
| 2019 | 約78,000件 |
| 2023 | 約108,000件 |
| 2024 | 約128,000件 |
つまり
約10年で2倍以上になっています。
不登校の増加
2024年度の調査によると不登校数は
353,970人でした。
これは過去最高数であり加えて12年連続の増加となります。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00006.htm
1990年代後半は不登校数が約13万人と比べると
その数は約2.5倍です。
いじめ認知件数の増加
いじめ認知件数も大幅に増えています。
2024年度の調査によるとその数は
約769,022件と前年比5%増で過去最多になりました。
ただし数字を見るうえでは以下の要素に留意が必要です。
これらの数字について文部科学省は次の点にも触れています。
「いじめの積極的認知と児童生徒の見取りの精緻化による把握件数増加の可能性」
つまり
「問題が増えた」のか「問題を見つけるようになった」のかは単純には判断できません。
2. 特に増えているのは「小学校」
特に目をひく内容が、暴力行為の内訳を見ると「小学校での件数が最も多い」ということです。
とあるニュースでも暴力行為の約3分の2が小学校と指摘されています。
(東洋経済オンライン)
- 校内暴力
- 学級崩壊
といった問題はかつて中学生の問題として語られることがほとんどでした。
だからこそ、それが小学生の問題として語られる昨今は、これまでのイメージを覆す現象と言えるでしょう。
3. 問題行動の「低年齢化」
中学校で頻発していたような問題が小学校で起きている。
これは”問題行動の低年齢化”が起きていると見えますが、それを裏付けるような言葉があります。
「小1プロブレム」
耳にしたことありますか?
小1プロブレムとは
小1プロブレムとは
小学校入学後に以下のようなトラブルが増える現象を指します。
- 授業に集中できない
- 集団行動が難しい
- 教室での問題行動
幼稚園や保育園から小学校に移行する。その環境変化が大きな要因とされていて、「小1ギャップ」「小1ショック」と呼ばれることもあります。
俗にいう「中1ギャップ」に近いものですね。
この問題は2000年代から教育研究者の間で議論されてきましたが、近年では低学年のトラブル増加と結びつけて語られることが増えています。
4. なぜ低年齢化が起きているのか
議論されている5つの要因
ここからは教育研究や報道などで議論されている主な仮説を見てみましょう。
重要なのは単一原因ではなく、複合的に作用しているという視点です。
仮説① コロナ世代
コロナ禍では
- 外出制限
- 学校行事の中止
- 友達との接触減少
が起きました。
その影響で社会性の発達が変化した可能性が指摘されています。
横浜市教育委員会も低学年の暴力増加についてコロナ禍の影響を示唆しています。
仮説② 幼児教育と学校教育のギャップ
保育園と小学校では教育環境が大きく変わります。
保育=遊び中心。小学校=授業(学習)中心。
この変化に適応できない子どもが増えている可能性が指摘されています。
仮説③ デジタル環境
小学生のスマートフォン利用が急速に増えています。
内閣府調査では小学生のインターネット利用率は80%以上です。
https://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/net-jittai.html
ゲームやSNSが
- 睡眠不足
- 情緒不安定
- 価値観
などに影響する可能性も
議論されています。
仮説④ 家庭環境の変化
家庭環境の変化も背景として議論されています。
例えば共働き家庭は1997年以降増加しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147282.html
もちろん、共働き自体が問題というわけではありません。
しかし、家庭の時間資源の変化が子どもの生活リズムに影響する可能性が指摘されています。
仮説⑤ 学校システムの変化
日本の教員は長時間労働で知られています。
OECDの国際調査でもその傾向が確認されています。
その結果
- 個別対応の難しさ
- 初期支援の不足
など避けられない実情があります。これが問題行動の再発につながる可能性も議論されています。
5. 不登校と暴力行為は無関係ではない
ここまで、問題の所在が低年齢化してきている傾向を見てきましたが、小学校低学年といった低年齢層で実際に何が起きているのでしょう。
不登校と暴力行為、一見別の問題ですが、その背景には共通する要素が隠れています。
心理的な要因
文部科学省の調査によると、不登校の理由として最も多いのは無気力・不安です。
つまり、現代不登校の多くは非行型や反抗型ではなく心理的要因型が中心と言えます。
令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知):文部科学省
これは学校ならではの集団生活や人間関係、学習に対して心理的な適応困難が起きている状態です。
一方で、この適応困難が引き起こしているのは不登校問題だけでしょうか。
不登校もあくまで発露の形のひとつ。暴力行為として発露する可能性も捨てきれません。
つまり、不登校を内向きな発露とすれば、暴力行為は外向きな発露と言えます。これは同じストレスの別表現と見ることが出来ます。
6. 「学校だけでは解決できない問題」
この問題の低年齢化で最も危惧すべきこと、それは問題の発生場所が推移したのではなく拡大している可能性です。
それを踏まえ、近年の教育議論では次の認識が広がっています。それは学校だけでは解決できない問題があるという認識です。
不登校であれ、学校での暴力行為であれ、舞台が学校となっているだけです。背景に家庭環境や社会環境、心理的な問題があるのは当然です。
だからこそ、学校ごとだと割り切って解決しようとしても、その他の要因が解決の障壁となってしまうケースは珍しくありません。
それに加え、時代とともに学校の役割も変化していることを忘れてはいけません。
学校の役割の変化
現在の学校は、従来より多くの役割を担っています。
例えば
- 福祉
- 心理支援
- 家庭支援
です。
さらに、コンプライアンス意識の向上とは裏腹に、生徒としての流れに乗り切れない子どもに対しては、してあげられる手立てが狭まっています。
リスクを回避しなくてはいけない論調が、「子どもをどうにかしてあげよう」という情熱を遠ざけているのかもしれません。
出来ることが限られるなかで、求められることが増える世の中に、教育現場では学校の機能限界も議論されています。
まとめ
令和の小学校に何が起きているのか
① 問題行動の増加
暴力行為や不登校は統計上増えています。
② 問題の低年齢化
従来より早い段階で問題が顕在化しています。
③ 社会構造の変化
問題の背景には家庭環境や社会規範の変化、デジタルデバイスの普及など、社会全体の変化があります。
重要なのことは、これらの現象を子どもの問題だけで説明しないこと、あるいは学校での事象と割り切らないことです。
表面上の行動のみに囚われず、背景に気を配りながら、多種多様な解決手段を検討することが求められています。


