EBSA(Emotionally Based School Avoidance)とは?/英国で急増中の不登校に着目
不登校問題は日本固有の社会問題ではありません。
世界各国が直面している不登校情勢とその対策を知ることで、日本における不登校支援の在り方を考えてみましょう。
目次
EBSAとは(Emotionally Based School Avoidance)
EBSA(Emotionally Based School Avoidance)は、「感情的な要因によって登校が著しく困難になっている子どもの状態」を指す概念です。日本語に訳すと「情緒的要因による登校回避」となります。
主に英国で用いられており、その数が増加していることが問題となっています。
West Sussex County Council(英国・West Sussexの教育心理サービス)によるガイダンスでは、EBSAを考えるうえで重要な点として、いわゆる“怠学(truanting)”や “school refuser(学校拒否)”と区別することが明示されています。
これは学校欠席の要因が、環境(学校・家庭・支援体制)からの影響を受けているのと同時に”学校に関連した強い苦痛・不安・情緒的負担”があることを示唆しています。
EBSAは「本人の問題」だけではない
EBSAは一般的に「学校欠席に単一の原因はない」と整理されます。
子ども本人だけではなく、家庭や学校環境などの複数の要因が絡み合っている状態を指しています。
登校回避に関与しうる主な理由として、次のようなタイプ分けがされます。
- 学校に行くことで生じる不快感(不安・抑うつ気分など)を避ける
- 学業・対人・学校環境などのストレス場面を避ける
- 分離不安の軽減や家族からの注意・安心の獲得
- 学校外で得られる報酬(例:家庭での活動)を優先する
ここで重要なのは、EBSAを「わがまま」や「怠け」として単純に処理しないことです。
EBSAを取り囲む要因
EBSAは同じ「登校しづらさ」に見えても、その背景や必要な支援が人によって異なります。
そのうえで、学校・家庭・本人それぞれにリスク要因がありうることを把握しましょう。
例として、以下のような要因が挙げられています。
学校側の要因(例)
- いじめ(資料中で「最も一般的な学校要因」と記載)
- 教科の困難
- 進級・進学・転校などの移行期
- 学業負荷やプレッシャー
- 対人関係(友人・教職員)問題
- 通学そのものへの負担
家庭側の要因(例)
- 家族関係の変化(離別など)
- 保護者の心身の不調
- 家庭内ストレスの高さ
- 喪失体験(死別など)
- 家族歴(EBSAの経験)
本人側の要因(例)
- 不慣れな場面での強い緊張・引っ込み思案
- 失敗への恐れ、自信の低さ
- 身体疾患
- 分離不安
- 発達特性・学習困難が未把握/未支援の状態
- トラウマ体験
一方でリスク要因だけでなく、保護要因(resilience / strengths)を見つけて育てることも重要です。
たとえば、安心感・所属感、成功体験、信頼できる大人や友人との関係、自分の気持ちを理解してもらえる経験、学校と家庭の協働などが、登校再開・維持を支える要素になりうるとされています。
EBSAの背景にある「不安(anxiety)」の理解
EBSAにおける特徴のひとつとして不安(anxiety)が挙げられます。
学校や登校を前に強い不安・恐怖を感じることがあり、これは思考面だけでなく身体症状(吐き気、震え、発汗など)として表れるケースがあり、症状は当日の朝だけでなく、前夜や数日前から始まるケースも報告されています。
また、こうした不安を避けようと、子どもは次のような行動をとります。
- 支度をしない
- 家から出られない
- 校門・教室に入れない
- 強い抵抗や怒りとして表現する
これらと同時に、「自分は学校でやっていける」という自己肯定感が低下することで、欠席の長期化リスクが上がります。
なぜEBSAが注目されるのか
英国でこのEBSAが広く語られる背景には、単に「欠席率が高い」だけでなく、心理的要因を伴う登校困難が、学校出席問題(attendance crisis)の一部として認識されていることがあります。
とある論文では、学校欠席の増加と児童生徒の不安増大への懸念を背景に、心理的障壁としてのEBSAを理解する必要性を論じています。
また同論文では、persistent absence(継続的欠席:10%以上の欠席)がコロナ前より大幅に増えたことに言及し、EBSAという語を“school refusal”が含みうる「本人の意図・反抗」ニュアンスを避けるために好まれると説明しています。
英国政府(DfE)のガイダンスでも、学校欠席対応において身体・精神の不調により通学が妨げられる子どもへの対応が明示されており、2024年改訂版ではその説明の明確化が行われています。
Working together to improve school attendance (applies from 19 August 2024)
英国の不登校情勢
「英国の不登校情勢」は、厳密には日本の「不登校」と同一定義ではありません。
英国(特にイングランド)では主に
absence(欠席)
persistent absence(継続的欠席)
severe absence(重度欠席)
といった指標で把握されます。
主要指標の定義(イングランド)
DfEの統計では、以下のように整理されています。
- Persistent absence(継続的欠席):可能な出席セッションの 10%以上 を欠席
- Severe absence(重度欠席):可能な出席セッションの 50%以上 を欠席
- なお、1セッション = 半日 と定義される(午前・午後で2セッション)
最新の公表値(2024/25 秋・春合算)
イングランドの公式統計(DfE Explore Education Statistics)では、2024/25年度の秋・春学期合算で次のような数値が示されています。
- 全体欠席率(overall absence):6.63%
- 継続的欠席(persistent absence):17.63%(約129万人)
- 重度欠席(severe absence):2.26%(約16.6万人)
また、継続的欠席は前年度より改善した一方で、重度欠席は引き続き増加しており、コロナ前より高い水準が続いているとされています。
コロナ前との比較
同統計では、秋・春合算ベースで以下が確認できます。
- 継続的欠席:17.63%(2024/25)
↔ 10.53%(2018/19) - 重度欠席:2.26%(2024/25)
↔ 0.81%(2018/19)
つまり、英国の学校出席問題はコロナ禍前より深刻化していると見て取れます。
背景要因として見られる格差・脆弱性
DfE統計では、欠席率は一様ではなく、以下の層で高い傾向が示されています。
- FSM(無償給食対象)の児童生徒
- SEN(特別な教育的ニーズ)のある児童生徒
- 中でも severe absence は、SENのない層との差が広がっている
これは、出席問題を「本人の意思」だけでなく、経済・福祉・発達・支援アクセスの問題と重なる構造的課題として見る必要があることを示します。
対して日本の不登校情勢は?
ここまでEBSAの話題から英国の不登校情勢を見てきましたが、ここ日本の不登校情勢はどうでしょうか。
文科省の最新公表(令和5年度)
文部科学省は、令和5年度調査の結果として、以下を公表しています。
- 小・中学校の不登校児童生徒数:約34万6千人(346,482人)
- 高等学校の不登校生徒数:約6万9千人
- 小中の不登校は過去最多(11年連続増加)
小中学校については、在籍に占める割合は 3.7% とされ、また欠席日数の内訳では 90日以上欠席が55.0% と高い割合を占めています。
令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知):文部科学省
文科省資料に見られる「背景サイン」
文科省の概要資料では、不登校の相談内容・要因として次の項目が上位に挙がっています。
- 「学校生活に対してやる気が出ない等の相談」
- 「不安・抑うつの相談」
- 「生活リズムの不調」
- 「学業の不振や宿題未提出」
- 「友人関係をめぐる問題(いじめ被害を除く)」
これは、“単なる怠け・反抗” では整理しきれない心理・生活・関係性の要因が日本でも多く観察されていることを示しています。
英国のEBSAと日本の不登校に見られる共通点
文化や風土の異なる英国と日本ですが、不登校という話題では共通点が見えてきます。
この共通点こそ、不登校問題で重視される要素と言えるでしょう。
共通点1:欠席・不登校の背景に心理的要因が大きく関与している
- 英国のEBSA文献では、学校環境に関連した不安・情緒的苦痛が回避行動の中核として論じられる。
- 日本の文科省資料でも、不登校児童生徒の把握事実として 不安・抑うつ、やる気低下、生活リズムの不調 が上位にある。
共通点2:出席率の問題は、教育だけでなく福祉・心理支援の課題でもある
- 英国DfE統計では、FSM/SEN層で欠席率が高く、格差や支援ニーズとの重なりが示される。
- 日本でも、文科省通知やこども家庭庁の説明は、学校だけでなく教育・福祉連携の必要性を明示している。
共通点3:用語・ラベルの選び方が支援の方向性に影響する
- 英国では “school refusal” より EBSA が選ばれる場面があり、本人非難を避け背景理解を促す意図が示される。
- 日本でも「不登校」をどう理解するか(休養の必要性・学びの保障・支援アクセス)は、制度・支援の設計に直結する。教育機会確保法やCOCOLOプランの文脈がその一例。
早期把握の重要性
二か国の共通理解として、不登校・欠席問題は早期発見・早期対応が重要であるとされています。
これは、問題が長引くほど行動パターンや不安が固定化しやすく、より深刻性を招くためです。
「完全に不登校になった」となる前に、以下の予兆を適切にくみ取り対処することが大切です。
- ときどき休む(散発的欠席)
- 特定の曜日・教科だけ休む
- 朝の支度が極端に遅い
- 週明けや連休明けに崩れる
- 軽い体調不良を理由に欠席が増える
- 登校意欲はあるが実際には行けない
- 保護者同伴や強い支援がないと登校できない
- 学校行事・校外学習を強く避ける
早期対応のためにまずは相談を
世界的に深刻化する不登校問題ですが、一方で各国をはじめ日本でも対策の充実化が図られています。
- フリースクール
- 家庭訪問支援
- SSW
- ICT学習
- チャレンジスクール
上記はほんの一例ですが、いずれにしても求めらえるのは支援への早期アクセスです。
ことの大小に関わらず「とりあえず相談してみよう」という心持を大切にしてください。


